突然ですが「行きし」や「行きしな」ということばを聞いたことはありますか?

幼少期から社会人になるまで関西で過ごした私にとって、この2つのことばはとてもなじみ深く、逆に聞いたことがない人がいることのほうが不思議なくらいです。

社会人になるまで北海道で生まれ育った夫に聞いてみると、「それって関西弁でしょ?就職して大阪に出てきて、同期が使っているのを聞いたとき、さっぱり意味がわからなかったもん」という答えが返ってきました。

そうだったのか・・・。

「行きし」って関西弁だったのか・・・。

だけど本当に関西弁なのでしょうか?

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「行きし」ってそもそもどういう意味なの?

疑問

出典:photo AC

「行きし」は、「(どこかへ)行くとき」や、「(どこかへ)行くときのついで」といった意味で使われます。

文法の視点で「行きし」を見てみると、「行く」という動詞に「しな」という「とき」や「ついで」という意味のある接尾語がつくことで、「行く」という動詞の形が変化したものが「行きしな」というもの。

そして、この「行きしな」の「な」が省略されて「行きし」となったのです。

この「行きし」や「行きしな」ということば、関西を中心に使われているのですが、実は広辞苑などの辞書に載っている標準語なのです!

関西以外の地方でも使われているようなのですが、使う人が少なかったり、年配の方が使うことばだったりと、関西で使われているほど使用頻度の高いことばではないため、関西弁と認知されているようですね。

「行きし」はこういう風に使います

では、「行きし」の使い方をご紹介しましょう!

私自身、関西弁を話すときにしか使わないこともあり(現在関東在住のため、普段は標準語で話しています)、例文が関西弁になってしまいますが、そこはお許しを!!。

「今日、学校行きしに○○におうたわ」(訳:今日、学校へ行くときに○○に会ったよ)
「行きしに郵便局へ寄ってこ」(訳:行く途中に郵便局へ寄ろう)
「行きしなは電車、帰りしなは歩きにしよっかな」(訳:往路は電車で、帰路は歩こうかな)

どうでしょうか?

なんとなく「行きし(行きしな)」の使い方をご理解いただけましたか?

ちなみに、例文に出てくる「帰りし(帰りしな)」は、「行きし(行きしな)」と同じように「帰るとき」という意味で使います。

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「行きし」は方言周圏論にあてはまるのか?

辞書

出典:photo AC

いきなり「方言周圏論」という難しいことばが出てきて、「なんだそれ?」と思われたかたもいらっしゃるでしょう。

方言周圏論を簡単に説明すると、「ことばというものは、昔の都・京都から生まれ、そのことばがゆっくりと時間をかけ、円を描くような形で地方へと波及していく。そして、ことばが生まれた京都では廃れてしまっても、地方ではその古いことばが生き残る」というもので、言語学者の柳田国男さんが考えだしたものです。

これを「行きし」に当てはめると、「行きし」ということばは、もともとは京都で生まれて円を描くように地方へ広まっていき、京都では廃れたものの、ほかの地域で生き残った、と言えるのか?ということです。

個人的な見解を言うと、「行きし」は方言周圏論にあてはまらないと思います。

なぜって京都を含む関西で、「行きし」は最も使われているからです。

もし方言周圏論にあてはまるのであれば、関西で「行きし」ということばはすでに廃れてしまって、関西から遠く離れた東北や北海道、九州や沖縄で使われているはずだと思うのです。

むしろ、「行きし」ということばは、とっても関西人らしい言葉じゃないのかな、と。

よく言えば「時間をも惜しむ」、悪く言えば「せっかち」な関西人が、「行くとき」や「行くついでに」ということばを発音しやすく、さっと短い単語で2通りの意味合いで使える「行きし」ということばの便利さに気が付いたから今でもずっと使い続けているのでは、と思うんですよね。

他にも、関西には「なおす(=片づける)」や「てれこ(=入れ違いになる)」など、関西人にしか通じない便利なことばがあるのですが、私は「行きし」もこれと同じだと思うのです。

関西以外の場所に住むと、これらのことばが通じず、「ああ、長ったらしいことばを使わなきゃ通じないなんて、なんてめんどくさいんだ!」ということが何度あったことか…。

きっと、関西人はことばをいかに短く、効率的に伝えるか、という感覚が生まれつき備わっているのではないでしょうか。

これにプラスして関西人というのは、会話のどこで面白いことを入れていこうか、という笑いへの飽くなき追及心もあるので、会話するときは一時も気を抜けないというスリリングな感覚も心地よいんですよね(笑)。

あとがき

いかがでしたか?

今回は「行きし」について考察をしました。

日々進化し続けることば。

他にも「方言だと思っていたけど実は標準語だった」ということばを探してみるのも楽しいかもしれませんね。